| 人工毛植毛の功罪 植毛はいわば外科的ヘアケアです。 この植毛には人工毛植毛と毛根移植の2つがあります。両者の違いは文字通り人工の 毛髪を使うか、生きた自分の毛髪を使うかというところにありますが、この結果には 天と地ほどの大きな差があります。 人工の毛髪を、1本1本頭皮に植え込んでハゲをカバーするというのが人工毛植毛 (arfical hair implantation)です。人工毛であるがゆえに、いくらでも失った毛髪 を増やせる長所があります。この点では増毛法の一つとも考えられます。しかし昭和 50年代後半、人工毛植毛後に「頭皮が化膿した」「植毛した部位が腫れて黒ずみ、み にくい跡が残った」などという苦情が相次ぎ、社会問題化したことがあります。人工 毛の頭皮に差し込まれる部分は、容易には抜けない仕組みになっています。しかし、 人体は異物が体内に入り込むとそれを異物として認識し、排除しようとする異物反応 をもっていますので、何年かのちには押し出され抜け落ちる宿命にあります。その度 にまた植えてやらなければならないことになります。人工毛ゆえに屈折に弱く、切れ やすいという欠点もあります。また植毛した頭皮に付着する皮脂を定期的に除去する メンテナンスが必要になります。さらに、頭皮の表皮細胞が人工毛を取り囲み、真皮 内に入り込もうとするため、凹んできたりします。また細菌が侵入しやすく、炎症を おこし、頭皮がデコボコと瘢痕化をきたす後遺症の報告もあります。 従って私は、現段階ではこの人工毛植毛の施術に消極的です。しかし、先頃一九九 八年六月二十七日の第4回日本臨床毛髪外科学会で、ニドー社はアテロコラーゲンを 表面結合した第4世代の人工毛を開発し、感染のリスクを少なくしたと発表しました。 この新しい人工毛ガ臨床応用されると、人工毛植毛の新たな発展が期待されるかもし れません。 「ドナー・ドミナントの法則」があるから 再びハゲる心配はありません 毛根移植とは、側頭部や後頭部のハゲにくい部分から採ってきた生きた毛根や頭皮 を、すでにハゲている部分(前頭部や頭頂部)に移植する方法です。これを可能にし ているのはドナー・ドミナント(donor dominant)という自然の法則です。 ドナー・ドミナントのドナーとは臓器提供者、すなわち植えるためにもってくる正 常な毛のことです。ドミナントとは優勢を意味し、ハゲにくい部分の毛髪はたとえハ ゲた部分に移植された後でも、その本来のハゲにくい性質をそのまま持ち続けるとい うものです。人体にこのドナー・ドミナントの性質があるお陰で、移植された毛髪は 男性ホルモンの影響を受けることなくスクスクと成長していき、ちゃんと定着するわ けです。人体の不思議なところです。 ですから毛根移植を施せば再びハゲる心配はありません。 毛根移植は安心かつ確実な治療法 毛髪の根元には毛母細胞という毛髪の種があり、この種をハゲた場所にうえつける という発想が毛根移植(hair transplantation)というわけです。 毛根移植では基本的に自分の毛髪を移植しますから、人工毛植毛のような移植後の 拒絶反応の心配も全くありません。また移植する毛髪が自分の毛髪なので自然であり 移植した毛髪が成長するメリットがあります。それだけに毛根移植は安心かつ確実な 治療法といえます。 「切り取られた部分にハゲの跡が残るのではないか」という心配を抱く方もあります が、これも何ら問題ありません。確かに側頭部ないし後頭部から頭皮ごと毛髪を切り 取ってくるのですから、切り取った部分に毛髪がなくなるのは事実です。にもかかわ らず外見全く問題にならないくらいに治るのです。手で首筋を掻き揚げてもやっと、 それらしい一本の線状が傷跡として見えるくらいです。 ハゲのタイプを変え、ヘアスタイルを改善させる 毛根移植の手術の前提条件では、本人の毛髪が健康であること、しかも側頭部や後 頭部に充分な量の毛髪が残っていて、頭皮が正常であることです。毛根移植は毛髪残 量が3/4〜2/3程度であれば十分に可能です。 毛髪の残量と並んで重要なのが、植毛後の毛髪の流れです。これを事前にチェック することも大切です。これを怠って手術した場合、術後のヘアスタイルが本人の期待 したものと大きく違いすぎて、不満の種となることもあるからです。 薄くなった側頭部や後頭部の毛髪が唯一の供給源でありますから数に限りがあり、 広範囲の脱毛をカバーできないのが最大の欠点です。すなわち毛髪数は一切増えませ ん。毛根移植は今ある自分の毛髪をハゲている部分に分散配列させ、ヘアスタイルを 改善する方法なのです。ヘアスタイルが改善されることにより、あたかも増毛したか のような美的効果が顕著に現れます。 単にハゲた部分に毛がよみがえっただけでは意味がありません。ハゲる前よりもっ とカッコよくなってこそ、毛根移植の真価があるというものです。 毛根移植にもいくつかの方法がある 毛根移植にはいくつかの種類と方法があります。側頭部や後頭部の毛髪を頭皮ごと 切り取り、ハゲている部分に植えつけることに基本的に変わりはありません。 いくつかの方法が開発されており、以下に示します。 1、縫縮術 ハゲた部分を直接切り取り縫い縮める方法です。火傷やケガでハゲてしまった部分 など範囲の狭いものに有効です。また頭皮伸展法(スカルプ・リダクション)もこれに 含まれます。 スカルプ・リダクション(scalp reduction)は、側頭部や後頭部にある有毛部の頭 皮を頭頂部まで引き伸ばしてハゲを隠すという方法です。頭皮に伸展性があり、余裕 がある方に向いています。 2、フラップ法植毛 フラップ式植毛(flap procedure)(図9)は、有毛部の頭皮(1平方センチあたり 約120本の毛量)の三辺を切り離し、残りの一辺は切り離さずに、そこを通る主要な栄 養血管を残したままその位置を中心にぐるりと回し、前頭部や頭頂部のハゲた部分に 移動させる方法です。フラップ式植毛にも様々な術式が開発されています。 フラップ式植毛は一度により大きな面積の手術ができるため、毛髪の密度が濃く、 生え際の角度を変えることによって顔の形にあった自然なヘアラインをデザインする ことができます。 また、手術直後から毛髪の生えた状態になることは、患者さんにとって何よりのメ リットでしょう。フラップを起こした部分は上下の皮膚を寄せ合わせることできれい になり、上の毛でカバーすればほとんど目立つことはありません。
3、単一毛根移植 遊離植毛法の一つであり、以前から行われていたパンチ式植毛(punch graft)か ら発展してきた方法です。単一毛根移植については次章で説明します。なお本書で述 べる単一毛根移植とは欧米で呼称されるマイクログラフト(micrograft)に相当する ことを付言します。 |
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